連休2日目はキック観戦。

前日、全日を観終わった後、いつものように高倉仮面氏と電話。ひとくさり武藤の悪口を言って、電話を切り際に「明日も休みなんですよねー」と言うと、
「明日、全日本キックだよ」
と。
おぉ!あのカード弱いスキマ興行って、明日だったのか!

頃もよい。どちらからともなく
P「んじゃ、立ち見で」
仮「あぁ、立ち見で」
P「はい」
仮「うむ」
そういうことになった。(この6行だけ夢枕獏陰陽師』調)

全日本キックとは言え、スキマ興行は久しぶりだなぁ。結局CUB☆KICKSには一度も行ってないし、前回が日本vsタイ5対5、その前が1・4、その前が藤原祭り。見事に勝負興行ばかりをつまみ食いしてる感じだ。
でもまぁ、出場するのが山内祐太郎、藤原あらし、ホリ川満正(ホリはさんずいに皇)…やはり、実力はともかくとして人気という面では弱さが目立つ。あらし頼りだねェ。
ていうか、違うんだよな。小林とか大月とか白鳥(現・アマラ)とかW山本とかがすごすぎるだけなんだ。さらに加えて優弥はいる、前田もいる、石川だっている、ヴァシコバも…さらには佐藤までいたんだ。「選手層」っていうものの凄みは、この団体には間違いなくあるよな。
っとまぁ、とりあえず行くと決めたからには行ってみよう。山内とホリ川は、生でその強さを体感したことないから、それがわかれば…まぁめっけもん、ってことで。

そんなこんなでボヤボヤと、手ぶらでフラリと後楽園へ。さて、立ち見が…
 が…無ぇ。
そっかぁ、さすがにこのカードじゃ、立ち見は開けられないわな…仕方なく、後で合流する高倉仮面氏のぶんのチケットも買い、場内に入ると。

あぁ、満員にならないホールは、キングスロード旗揚げ興行以来だ。

ずいぶん余裕を持って出たつもりだったけど、すでにオープニング ファイト中。そういえば、P's LABの選手がいましたよ。Y.O.次郎(わいおーじろう)って人。1Rはミドルにハイ、突っ込んでパンチと、本職・勇心館の木塚選手を圧力で押し込んでセコンドのヴァシコバを慌てさせる場面もあったけど、ローを集められて崩れちゃった。
厳しく言えば、見栄えは豪快だったけど、実戦レベルとしてはまだまだ、って感じだったかと。大きな打撃にはそれなりに華があっただけにもったいない。


さて、今回の興行の目玉は、既に8名から4名に絞られた精鋭によって争われる、新設の
スーパーウェルター級王座決定トーナメント」である!(どーん!)
さらに脇に控えしは、この王座に挑むために優勝候補の山内祐太郎が返上したことで空位となった、全日本キックウェルター級王座の決定戦。
不屈の玉砕ファイター、ホリ川満正vsデビュー以来8戦全勝の大型ルーキー、大輝(だいき)の激突!(どーん!)
そしてそして、J-NETWORK主催の55kgトーナメントであるMACH-55(マッハGoGo)で優勝を飾り、さらには結婚&第一子の誕生と順風満帆ながら、前々回の日本vsタイ・5対5マッチでワンロップ・ウィラサクレック(………。)に敗れてしまった藤原あらしが、万全の再起をはかるべく、タイ人ラジャサクレック・ソー・ワラピンに挑む!(どーん!)

……。

はっきり言おう。地味だ。
山内の強さは、その強さと同じくらい、「わかりにくさ」も天下無双である。ライツアウトというか何と言うか、とにかく試合の中で
「自分が勝てる状況を作って勝つ」
というべきか。これは総合に例えて言えば、上になったらテコでも譲らないパウロ・フィリョの強さとか、死んでも寝ないことにおけるミルコ・クロコップの強さとか、そういう分類に当たると思う。つまりは「派手さがない」のだ。
ウェルター級王座だって、言ってしまえばこの山内が返上し、同級1位の山本優弥K-1MAXに主戦場を移したからこそこの二人(ホリ川、大輝)で争われてるんであって、しかも大輝はまだデビューから数えて9戦目。
8戦全勝に加えて7割に及ぶKO率は賞賛に値するが、対するホリ川は18戦13勝。大輝の戦歴にいわゆる強豪というような選手がいないことからも、前評判は圧倒的にホリ川であり、当然、ボクも最近注目し始めたこともあって、ホリ川が得意とする「骨を斬らせて骨を断つ」式の捨て身の激闘に期待している。
さらにはあらし…なんだが、個人的にそこまで思い入れのある選手じゃなくてねぇ。何でだろう。ひとつだけ言えるのは、昨年の上記MACH-55決勝を争った国崇(くにたか・旧ネームは藤原国崇だったが、あらしに敗戦後に改名)が非常に強く、また好きなタイプのファイターだったので…あらしの縦ヒジ一閃で大逆転されてしまい、かなりガッカリしたことはまだ記憶に新しい。
全日本を代表する選手の一人であり、強さは折り紙つき。ファンには待望の復帰戦なんだけど…ヒイキばかりは仕方がないというか(苦笑

ということで、たまたまやってたからぶらっと観に来た、というくらいのモチベーションでの観戦だったんだが、始まってみたら、これがまぁ、何というか。


スーパーウェルター級トーナメント準決勝・第一試合
○濱崎一輝‐白川裕規●
(3R判定3-0・白川は1、3Rにダウンあり)
バックブローなどハデな打撃の白川に対し、濱崎は細かいパンチ、ヒザを織り交ぜたコンビネーションで応戦。勝敗は、わりと両者の実力差がそのまま出た感じ。
濱崎のテクニックはなかなかのものだ。あともうひとつ破壊力が加われば、もう一段上に行ける選手だと思う。もう一段上とはつまり…

同準決勝・第二試合
山内裕太郎‐吉武龍太郎●
(3R判定2-0)
つまり、山内のことなのよね。タイプとしては、白鳥時代(つまり全日本キックでの)のアマラとか、あるいはこないだのK-1MAXでの佐藤に多少似ている。常に相手にプレッシャーをかけ続け、容易に手を出させず、的確なロー、パンチを駆使して相手を封殺してしまうのだ。こういうタイプの選手は、
「相手が強ければ強いほど、真価を発揮するんだよなァ」
と、隣でメモをとっていた高倉仮面氏がポツリ。
特筆すべきは、絶妙のステップとフェイントで絶対に相手に主導権を渡さないこと、打撃が交錯したら、最後に必ずローなりで自分から攻め終わりの区切りをつけること。言葉にすると曖昧でわかりにくいんだけど…観ていてあからさまに、相手が攻め手を欠いていくのがわかる。
焦れた相手をさらに追いつめるのが、ヒジとボディーストレート。こないだまで「顔面への前蹴り」が地味に流行していたキック界だが、今はこの「踏み込みながらのボディ」がやはり地味に流行っている感じ。また、これが入ると流れが変わるんだよね。これが出ると「あ、出たな」と、気をつけるように観てます。
試合は正に山内の真骨頂。吉武の所属はアイアンアックス、TATSUJIと同門で、こじつけるわけではないけれどどんどん踏み込んでパンチを仕掛けていくんだが…山内はこれをスイスイと捌きながらヒジを合わせ、あっさりとカットに成功。出血はさほどでもないように見えたが、吉武はマットにひっくり返って悔しがる。
ドクターチェック後、再開されると吉武はなおも噛みついていくが、山内はまるで測っているかのように距離をビッタリと一定に保ち、吉武の仕掛けをまるで許さない。
今にして思えば、あの吉武の悔しがりようは、まんまと山内にペースを握られたことへのものだったんだろうか。

復帰戦
○藤原あらし‐ラジャサクレック・ソー・ワラピン●
(3RKO、3ダウン)
憎んでも憎み足りないんだが憎みきれないWSR(ウィラサクレック)軍団の雄、ワンロップにより眼カ底骨折に追い込まれたのはもう半年前。復帰戦に臨むあらしは闘志マンマン。2度のローブローにより、新婚さんには別の意味で手痛いダメージを負うものの、新郎が下腹部の不調を訴えるわけにもいかぬ。1分間のインターバルも早々に、ハッスルファイトでワラピンの顔色を変える。
2Rにロープ際で痛烈な左ストレートをド至近距離でヒットさせると、3Rにはパンチとキックで怒濤の3ダウン。鮮やかすぎる復活を遂げた。
試合後、あらしは誕生したばかりのお子さんを抱っこしながら、「お父さんになった藤原あらしです!お世話になった○○さん!◇◇さん!あと△△さん!それに□□さん!」と早口でまくしたて、
「最後に、最愛のヨメに!ありがとう!!」
いやぁ、なんとも。ごちそうさまでした。
あらしはやっぱ、強いねェ。

休憩明け、次回後楽園で初のメインを受け持つ石川直生が挨拶。
「前回(第2回日本vsタイ5対5マッチ)は勝ったけど『石川だいじょうぶか』って…」
確かに。応援してるから是非、大宮司戦は安心させてください。
ていうか、この5月興行には、寺戸伸近‐真二が組まれている。俺メインはこっちかもな…

ウェルター王座戦
○大輝‐ホリ川満正●
(2RKO)
いやいやいやいや!大輝は強かった!前評判を見事に覆しての、一方的なKO劇でした。
体格でやや勝る大輝は開始早々からパンチ中心にホリ川を攻めたてる。1R中にいきなり2度のダウンを奪うが、ホリ川を知る者としては、逆にここからの大逆転こそを期待していて(ほんとにそんな試合が多いのよ)。
しかし、大輝の技と力はそれを許さず。終始ペースを乱さず、冷静にホリ川の反撃を抑えてさらにダメージを与えていく。さっき書いたボディ、また大輝が巧いんだ。1R終了直前、集中力を切らさない大輝は、事実上3つ目のダウンを奪うが、惜しくもゴング同時。
2Rに入っても大輝のペースはまるで揺るがず。鬼気迫るホリ川の猛追を、あくまでも冷静に押さえながら…フィニッシュは、粘りに粘るホリ川の首をもぎ取るようなアッパーからのフック。前倒しに倒れたホリ川を見て、レフリーが慌てて試合を止めたわけで。
これはびっくりしたねー。本当に、こんな選手がいたのか、って感じ。あまりの衝撃に、大のホリ川ファンである高倉仮面氏はメモを取りながら
「チクショー!チクショー!」
と。いやぁ…大輝の強さを認めてやるしかないですなぁ。

スーパーウェルター級王座決定トーナメント・決勝戦
○山内祐太郎‐濱崎一輝●
(3RKO)
序盤こそ手数の少ない山内に対して「ローだ!」「蹴っていけ!」と場内から声が上がったが、終わってみれば見事に完勝。ボクはむしろ、牽制の攻撃を出さずにあそこまで濱崎を追い込んだ山内の「山内らしさ」に感服してましたなぁ。準決勝で濱崎の動きを観ながら、『こりゃ、ラッシュ力とかは強いけど…山内にしてみたらたぶん大好物のタイプなんじゃねぇか?』って思ってたくらいで。
この試合、全日本キックのDVDには収録されるよな。1R、2R、3Rと、山内が半歩ずつ、濱崎との距離を詰めていってたように見えたのよ。もうね、「見切り」の精度が徐々に高まっていった証拠なんじゃないかと。
また、私的チェックポイントの、要所でのボディがまた素晴らしくてねェ…フィニッシュもボディからのフックでありました。
序盤のヤジまがいの声も、確かに観てる側からすると手数がないと不安にはなるんだけど…この試合の山内に関しては全く心配なかったなぁ。準決勝と変わらず、とにかく相手との距離が一定で。しかもその距離っていうのが十分に離れたものじゃなくて、手を伸ばせば届く距離でね。あぁ、この間合いを保ってる間は山内には「万が一」もなさそうだな、って言えるくらいの安定感。名人芸を堪能させていただいた感じです。


全体を振り返って、何気なく観に来たスキマ興行だったけど、かなり満足感は高かったです。特に、大輝の勝ちっぷりは素晴らしかった。
…んだけど、これはたぶん、こういう興行でも満腹になれるくらいには、ボクがキック好きになってきたってことなんでしょうな 笑

文中にも書いた通り、次回5月はメインの石川も楽しみだけど、寺戸‐真二が何より大注目。万人に薦められる派手なカードではないけれど、激戦は必至だもの。


ということで、こちらも1万字。おかしいなぁ、全日本プロレスと合わせて1万にするつもりだったのに…それぞれ倍になってしまった。
長々と、失礼しました。