「Zガンダム外伝‐ティターンズの旗のもとに・下巻」読了。

馬鹿はてなが携帯メアド変更をなかなか承認しやがらなかった(システムトラブル?)ため、ちょっと前に書いたものですがようやく更新できます。
もうmixiには書いたし、それと内容は基本的には変わらないのですが。



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30代ガノタ必読。

初代ガンダム以来約20年、ガンダムが打ち出した世界観は、一般的に「善・悪と簡単に二元化しえない、リアルな戦争とリアルな社会」と言われます。
だがしかし!
悪名高い「30バンチ事件」やカミーユの両親(特に母親)が戦禍に巻き込まれて非業の死を遂げたくだり、またフォウ・ムラサメロザミア・バダムらを強化人間として人体改造したなど、数々の「悪行」をつきつけられ、貶められてきたのがティターンズであります。

20年の時間をかけ、「ブリティッシュ作戦」の首謀者たるジオン公国は一部(あるいは多く)の熱狂的な支持者を獲得するに至っている一方、ティターンズは、マニアからも
「調子に乗ったエリート集団が暴走したあげく、マザコンロリコンスペースノイド(シャアのことじゃないよ)と非モテ毒女に乗っ取られたマヌケ」
として冷遇され続けてきました。
本書は、そうしたティターンズの末端構成員にスポットを当て、マニアのみならず作品世界内でも不当に蔑まれてきたティターンズに対し、
「戦場には善も悪もない」
という初代ガンダムが打ち立てたといわれる公平かつ冷静な視点から、新しい「歴史的評価」を試みた意欲作であります。


ウェス・マーフィー大尉率いる新型MSテスト小隊に属するエリアルド・ハンター中尉は、「正義の軍隊」の象徴であるガンダムティターンズが運用した、という事実を闇から闇へと葬るべく、軍法会議にて密殺されようとします。
それは、「グリプス戦役」に勝利したエゥーゴを裏から支援したことで連邦軍連邦政府への発言権を揺るぎないものにした軍需産業複合体アナハイム・エレクトロニクスの意向でもありました。

マーフィー小隊が運用した「ガンダム」は、ティターンズのコンペイトウ(旧名・ソロモン)工廠で開発されたものでした。この点において、「ガンダム」の神話的印象を損ないたくない連邦軍と、モビルスーツ開発で特権的地位を確立したいアナハイムの思惑は一致します。
それは、該当の「ガンダム」がすでにコロニーレーザー争奪戦の渦中で失われていることを踏まえ、このガンダムの実際の運用に携わったハンター中尉を「命令違反」として処分することで、この「悪役たりえたガンダム」を歴史から抹消しようということでした。


最初、軍内部の派閥争いの一端と思われたこの軍法会議は、一年戦争時に連邦のMSパイロットであったコンラッド・モリス法務官の熱意と努力により、打算と日和見に毒された連邦軍首脳の暗部が、明るみへと引きずり出されかねない一大闘争へと発展していきます。
その過程で、軍首脳部は、軍内部の非主流派への監視と統制、ひいてはマスコミへの直接間接の威力的妨害を繰り返し、ついには民間人を殺害するという暴挙にまではしります。


この軍法会議がどう決着するのか、またその中で並列的に語られる、「上層部の暴走によって一方的に(場合によっては間抜けな)悪役として語られるティターンズ」の一般将兵が、戦場で何を見、何を感じ、どう行動してきたか…もしそこに興味を持たれるのであれば、これ以降は是非、本書を実際に読まれるべきと考えます。


しかし、本書によって提示される「裏・グリプス戦役始末記」は、ただ本書の世界にのみとどまるものではなかった、と感じました。
エゥーゴに参加したクワトロ・バジーナとしてのシャアがダカールで暴露した「連邦軍内部の腐敗と独善」、ジオン・ダイクンの息子としてシャアがネオ・ジオン将兵に語った「地球をも滅ぼさんとするアースノイドの偏見に満ちた狭隘な自意識」を浮き彫りにした本作。
それらの諸問題に対する最終的な解決、すなわち人類の新たなる段階として「誤解や偏見を超えて人と人とが本質的に理解しあえるニュータイプ能力の開花」が訪れるという待望論がなぜ熱狂的に迎えられたか、そして、その理想を掲げたスペースノイドが、なぜ武力革命という直截的行動に打って出なければならないほどの危機感を抱いていたか。

その答えのひとつが、本書において示されている。UCガンダムを解読するさらなる鍵は、このグリプス戦役を端緒とするティターンズアクシズネオ・ジオンという「ジオン・ダイクンの革命の挫折と再興」にある。
ガンダム史研究の新しいフェーズの扉が、本書によって開かれた…と、自分はそう感じたんだけど、これって要するに、自分がティターンズ好きだったからなのかもしれないね。


ところで、この作品に登場するアドバンズド・ヘイズルとか、ギャプラン・フライルーとか、アッシマー・キハールらのMSは普通にカッコいいので、MS燃えな方にもそれだけでおすすめできます。

さらに、作者である今野敏氏が得意とする法廷サスペンスは、単なる「活字版ガンダム」という印象を大いに裏切る、迫力に満ちた息詰まる展開。

かてて加えて、戦場という非日常的空間の中で交わされていく、人間らしい心の交流の描写も秀逸。ミリタリーロマンスとしても、完成度の高い作品です。


というわけで、
「すごくよかったからみんな読もう!」
が結論です。非常にオススメ。

以上、おしまい。