過去ログ・大江健三郎。

526 名前: 大江健三郎 投稿日: 01/09/01 11:43

 妹よ、今日の朝、正確に言うなら6時45分の目覚まし時計のベルの音がする前
に、暗く淀んだ、目覚めようとしながら眠り込むような、また、眠りに引き込まれ
ながら覚醒に近づくような「不吉な夢」から目覚めた僕の身体上の異変について、
やがて僕の部屋を訪れるであろうきみが、僕がそうであったように、まず背のまる
みに気づき、次に褐色をしながら丸く膨らむ腹部を眺め、最後にかぼそく、かつて
の僕のそこがもっていた脂肪とか、体毛とかをすっかり失ったかわりに数ばかりを
押しつけられた足へと目をやるような、そういうしかたで気づくのではなくて、人
のかたちを失った、それでもなお魂はあのきみのよく知る僕であるような、変わり
果てた僕の姿を一目で見渡してしまうそのとき、きみの心中はいかばかりであろう
か?
 この僕を認識してなお、妹よ、きみがいつものように優しくいたわってくれるで
あろうと、僕は期待してよいものだろうか?醜くおぞましい毒虫に変わり果てたこ
の僕であっても!


(編集時感想)
これ、もっと長くすればもっと迫力のある文章になってたんだろうな。
参考文献は、「同時代ゲーム」。



というわけで、かつて2ちゃんねる文学板でやったやつのコピペ。
このスレ、過去ログ倉庫にももうないらしく、自分でもたまに読みたくなったときに困っていたので転載しました。