漂流記。

雑ニュースってぇやつなんだがね。

なにやら「大人の事情」で忙しいオランダだが、この国にも、まぁ片田舎の小さい島はあると思いねぇ。
思いねぇって言ったからって、あるんだかねぇんだかってことじゃねぇぜ。あるのはあるんだ。俺ぁ行ったことねぇがよ。鄙びた小島があると。まぁオランダの事情云々はあれだ、マクラってやつだ。ここはひとつ、小島の景色でも思い浮かべて続きを聞いてもらいてぇな。

んで、その小島でさ。ある日突然、浜辺いっぱいに靴が打ち上げられたってぇ、まぁ言ってみりゃそれだけのことよ。
でもよ、浜辺いっぱいに打ち上げられた靴ってな、どんなんだろうねぇ。そりゃ妙な眺めだろうねぇ。どんなんだろうねぇ。

タネを明かしゃあ、沖の貨物船が転覆しただかコンテナに穴が開いただかして、積み荷が流れ着いたってことでさ、おまわりさんが積み荷を見張ってるらしいんだが、浮かれて押し掛けた島民が、てんでに手前の足にぴったりした手頃なやつを三つ四つくらいは失敬するなんて、そんくらいはお慈悲のお目こぼしにあずかってるっていうんだ。のんきな話じゃねぇか、な。
打ち上げられたのが浜辺いっぱいだってんだ。こりゃ珍事ってんでおっとり刀で駆けつけた島の奴らだって、まさか五人十人ってこたぁあるめぇよ。きっとみんなして、やれあっちにこいつの片割れがあっただの、こっちのそいつの色違いはねぇかだの、25.5センチの黒のスニーカーは全部俺のだだの、さぞや喧しいことになってんだろうなぁ。あぁ畜生、うらやましい話じゃねぇか。俺も一丁、その騒ぎに紛れ込んでみてぇもんだよ。そうは思わねぇかい?


んでよ、これはほんとに余談なんだがよ。
なんとこの島じゃあ、以前にもこんなことがあったっていうじゃねぇか。沖のお船がひっくり返って、積んだ品が浜へぞろぞろ……それがこう何度もあるってね。
世の中ってのは不思議だねぇ。