? マッスルハウス観戦記。

観てきてしまいました。マッスル。
この興行は…DDT所属のレスラー兼映像班であるマッスル坂井の全面プロデュース興行シリーズです。
その特徴は、一言で言うと「過剰すぎる演出」。というか、プロレスはあくまで演出のダシに過ぎないという、いわゆる「プロレス」のつもりで観ているととんでもない目にあう興行です。
レギュラーメンバーはペラペラのチビかそうでなければダルダルのデブ。
興行開始から小1時間は「演出家」が「今が一番のヤマ場」と称してしゃべりまくる。
試合はリング上どころか、「サブアリーナ中継」としてビジョンで上映したり、会場ビル内のカラオケ屋やゲーセンにまで逸脱。
クライマックスには現実のリング上でスローモーションがかかり、回想シーンに入れば花吹雪が舞い、虐殺や自殺はおろか出産まで起きたことさえある。
書きながら目の前がクラクラするようなこの「過剰さ」が最大の特徴…というか、はっきり言って存在意義でさえあるという狂乱の異空間であります。
なんかもう、イントロの時点でこの観戦記が破綻するのは目に見えてるわけですが…が、がんばります。


さて、サムライTVにて初の二アライブ中継されるという今回のマッスルハウスは、事前の記者会見で前フリがありました。
・新ブランド「マッスルランド(エンターテイメント路線)」と「ファックアップ(リアルファイト指向)」の立ち上げ
・ツルティモドラゴンジム生の卒業後の進路決定
 (趙雲子龍新北京プロレスへ)
 (ペドロ高石はターザン後藤一派に加盟、および総合初勝利を目指す)
 (アントーニオ本多はイタリアン・フォー・ホースメンへ加入)
・海外進出、メキシコにて「スモー・リブレ」を立ち上げ。大鷲トオルティーヤ、大鷲トオルティーヤ・シートに参戦を呼びかけつつ、進路の決まっていないマッスル坂井は強制参加
とのこと。そして、これによるマッスル陣営の穴埋めとして、新エース候補の「名古屋の巨象」マンモス半田(偏差値U-30インターナチュラル選手権保持者)を紹介。マッスルハウス2にて、ツルティモジム入学テストとしてゴージャス松野とのシングル戦を行うことも発表されました。
以上が、今回の前フリ。とにかく今回も、一筋縄では行かなさそうな気配がすでに濃厚なわけで。


とりあえず、会場である後楽園ホールに入った最初の印象は、「今まで観てきたどの興行とも、客層が全く違う!」ってことでした。うまくは表現できないんだけど、関係者然としたあまり興行そのものには興味なさそうな団体客とか、年配もしくは逆に若年層といった人たちがほとんどいなかったとは言えると思います。
そうしたお客さんたちが、北側席のない東西南席にいっぱいで噂通りの大盛況。開始時間になると、客入れの音楽をそのままボリュームアップしていって開演をアピール。地味だけど、この演出はよかったなぁ。


○オープニング〜(例によって)前代未聞の大演出〜
さて、会場では以上の記者会見の映像が流される。さらに直前映像としてゴージャス松野の負傷欠場が発表され、マンモス半田は入学テストに不戦勝。代わりに、新エースのお披露目として7人と次々に戦う「マンモスランブル」の開催が告げられると、リング上にマッスル総合演出の鶴見亜門が登場。
「今回はサムライTVで二アライブ中継されるが、ゆくゆくは地上波、ゴールデンタイム進出、さらには大晦日スペシャルを目指すマッスルとしては、数字のとれないプロレスなどはやっていられない。深夜のプロレス中継なんて誰か見てますか?今日はこれから、バラエティ番組の収録をします!」
といきなりの爆弾発言!
「格闘技の聖地である後楽園ホールでの興行なんだから、プロレスやらせてくださいよ」
と詰め寄る坂井に対し、亜門は
後楽園ホールは、某日本テレビのスタジオとして『笑点』や『仮装大賞』の収録にも使われるバラエティの聖地でもあるんだよ!」
と大反論し、今回の興行の目玉が、「マンモス半田・ドッキリ大作戦」であることを発表!さらには、このドッキリ種明かしの時間稼ぎのため、遅刻している参戦予定の大家健がブログで自殺をほのめかしているとデッチあげ、マンモスを駆けつけさせることで会場から引き離していることも明かした。
「ドッキリって言っても、まさかひっかかるとは思えない」
と首をひねる坂井らに、亜門は
「このマッスルの台本は、大学の演劇サークルレベルで書いている。お前らの学歴はどうだ?」
と聞くと、早稲田中退(?!)の坂井を始め、次々と大卒もしくは中退という学歴が明らかになるが…ここで趙雲がうっかり「日大地理学部です」とカミングアウト!中国からの留学生だったはずなのに(笑)。
「とにかくお前らは高卒くらいの知能はあるわけだ。半田のレベルがどれくらいか、このVTRを見ろ!」
と、亜門がビジョンを指すと、事前に「ツルティモジム入学のための学力テスト」としてマンモスの知能レベルを測った一部始終が映される。
英語で10までしか数えられず、月の名前も全く言えないマンモスの恐るべき知能に一同が「これなら引っかかるかも…」と納得すると、亜門はこのドッキリの全貌を解説し始めた。
まずは、事前にスカパー!社員の巨乳美女・関さんがマンモスの大ファンだと偽ってメルアド交換しており、調子に乗ったマンモスとのメール交換を藤岡メガネが担当していたことが明かされ、さらに関さんを会場リングサイドに座らせることによって、ドッキリ特有の不自然で強引な展開からマンモスの目をそらせる作戦。ここで仕掛け人の関さんが、実は大ファンだというUWFのテーマに乗せて呼び込まれて深々と「四方の礼」を披露するが、これは絶対にUのテーマが使いたかっただけだ(断言)。
そして、マンモスランブルでは
「勝っちゃいけないと言われていた相手にあっさり勝ってしまう」
「対戦相手が赤ちゃんをおんぶして出てくる」
「タチの悪い酔っぱらいが試合を妨害する」
「その酔っぱらいが会場に放火する」
「最後には関さんを人質に取る」
と、手の込んだ(?)作戦を披露。「タチの悪い酔っぱらい」は女子プロレスファンという設定。そして、我々会場の観衆にも、適宜歓声や悲鳴で仕掛け人として参加するよう要請された。
(しかし…途中で「ランブル開始は7時45分(興行開始は7時)」と言っていたにもかかわらず、この解説ですでに8時を回っていて、ボクはなんか微妙なものを感じてしまってたんだな。全体的にはあんまり気にしているふうでもなかったけど)


○マンモスランブル〜あるいは公開生収録〜

最初の対戦相手は虎龍鬼。わりと派手でしっかりしたマスクを被っていて、できればちゃんとした試合を見てみたかったが…そこはドッキリ。「万一にも半田が先にギブアップでもしないよう、なるべく急いでタップしてくれ」という絶対演出家・亜門の指示通り、序盤の腕取りで即タップ。「新エースとしての存在感を見せつけるためにも、絶対勝つな。最後の七番めで勝ってお前の存在をアピールしろ」と演出されていたはずのマンモスがあまりあわててもいないことに不審感を覚える間もなく、マンモスランブルのカウントダウンが始まる。
続いての相手は塩田秀樹。これは別に演出はなく、鶴見いわく「天然vs天然」という試合。胸にでっかく「塩」と書かれたTシャツの塩田が、わりと空中殺法とか小気味いいなぁと思っているうちに試合時間の2分が経過して引き分け。

次に上がってきたのは酒井一圭HG。名前からわかる通りレイザーラモンHGの衣装をつけたパクりキャラなのだが、結婚していて最近子供が生まれたというのがまずビックリ。そして鶴見の演出によりその子を抱っこ(おぶい紐で胸前に、正面向きでくくりつけるという荒技)していて二度ビックリ。さらに、帰ってきて調べてみたら、元・ガオレンジャー役者ということで3度ビックリ!…ま、まぁそれはともかく、当然のごとく泣き叫ぶ長男・りき君の姿に会場の一部から「かわいそう」の声が飛ぶが、パパはおかまいなしにロープに飛ぶわ、巨漢マンモスにショルダータックルでぶちかますわの大活躍。マンモスが戸惑いまくったところで2分経過して終了。
(これはさすがにキツかったなぁ…アクションによる事故の可能性はもちろんなんだけど、何よりあの「声」の圧力って、リング内では相当のものだったんじゃないか。いくらパパとは言え、悪ノリにも程があると思ったぞ)

さて、いよいよ関さん絡みにつながるドッキリもクライマックスへ。Mr.マジックとの試合中、関さんのそばに座った酔っぱらいが、立ち上がってヤジを飛ばし始める。
「(アクションつきで)えーるえるっ!ぴー、だぶりゅー!!神取さいきょーっ!女子プロレスやれやーっ!」
会場から(いきなり)帰れコールが発生する中(一部、「LLPWコール」への追従者も現れたが、ほんの一瞬だけですぐ消えたのはさすがマッスルの観客だとしか言いようがないと思う)、Mr.マジックがキレて酔っぱらいに飛びかかる。セコンドも駆けつけて酔っぱらいを会場外に連れ出し、その間かすかにオロオロするマンモスをしり目に、仕掛けは…いやいや、ランブルは続く。

ホストキャラ、センターガイキャラ、パラパラキャラなど一貫してイケメン(?)キャラの726(なつる)がリングイン。試合が始まってしばらくすると、2Fバルコニーに先ほどの酔っぱらいが姿を現す。
「女子プロじゃなきゃつまんねーよ!こんなつまんねー会場、燃やしてやるーぅ!」
とかがみこむと、みるみるバルコニーから発煙!同時に、非常ベルが鳴り響き赤ランプが点滅する!!この異常事態に素早く反応した726は
「俺が行ってあいつを止めてくる!お前は、このマイクで観客のみなさんを安全な場所に誘導するんだ!」
とマンモスに避難誘導を託し、2Fバルコニーへと駆けつける。マンモスの誘導は…
「あー、みなさん、これヤバいですよ。これホントヤバいです。ヤバいですから…」
あまりと言えばあまりにも緊張感を欠く誘導に、客席の反応もイマイチだったが、がんばって走ったらしい726がバルコニーから顔を出すと非常ベルも止まり、なんとか致命傷を負わずに興行は次へと進む。

エリート保険マンにしてカポエラの名手であるペドロ高石が登場、マンモスと対峙すると、三度酔っぱらい登場。ついに観客席最前列で観戦中の関さんにナイフを突きつけ、
「今から神取呼べや!こいつと女子プロレスやらせろぉ!!」
と、ありえない脅迫を始める。これに対しペドロが得意のカポエラステップで救出にかかるが…囚人格闘技では武器にはかなわず(?)近寄ることすらできない。不穏な空気が流れる中、
「マンモスーッ!助けてーッ!!」
と、関さんの悲鳴が(ついに)響く!
ここまでお膳立てをされたマンモスが、ノロノロと酔漢with関さんに近づきながら
「やめろよ、お前」
とモッサリと制止にかかる。なんとも気の抜けたアクションに戸惑う場内…。
「も、もう、止めろーッ!!」
と割って入ったのは鶴見亜門…が、逆上した酔漢のナイフが亜門の腹部に突き立てられてしまう!
立ち尽くすマンモス、顔を覆う関さん、亜門の元に駆け寄るマッスル勢。
「キャーーーーーッ!!」
という関さんの悲痛な声が、後楽園に響きわたる。
「マンモス…」
と呼びかける坂井の手には、

『ドッキリ!』

というプラカードが握られていたのであった。
しかし、あまり動揺した様子のない(というか平然としすぎている)マンモスに、坂井がさらに声をかける。
「マンモス、これ、ドッキリなの」

「あ、知ってますよ」

驚天動地のマンモス発言に、逆にうろたえまくる坂井らマッスル勢。置いていかれまくる観客席。
坂「え?知ってた?あの、これ全部ドッキリだよ?」
マ「ええ、知ってました」
坂「どのへんから?」
マ「最初っからですよ」
唖然とする坂井に比べ、あくまでも平然としたマンモス。
坂「いやだから、関さんも別にお前のこと好きじゃないし…」
マ「そうですよね、ハイ」

このドッキリがどこまでマンモスにバレていたのか、あるいは『実はマンモスがすべて知っていた』という逆ドッキリなのか、台本がどうなっていたかは知る由もないが、ショーの主役であるはずのマンモスの、この鈍さはどうなのよ…。

…が、この気まずすぎる空気の中、アントーニオ本多が叫ぶ。
「あーっ!こ、このナイフ、本物だぁっ!!」
あまりの事態の連続に、もはやどうリアクションしていいのかわからない観客席。ゆっくりと、虫の息の亜門が語り出す。

「やっぱさ、演出には…リアリティが必要だから、さ…俺が、使わせ…たんだ…」
亜門の捨て身の演出家魂に、衝撃を受けるマッスル勢。
「みんな…マッスルのこと、頼んだ…ぞ……」
希代の怪演出家・鶴見亜門は、その最期まで自ら手がけたマッスルの成功を祈念しながら、衆人環視の中、息を引き取ったのであった。



場内アナウンス『鶴見亜門を送り出すため、ここで15分間の休憩をいただきます』


※マッスルハウス2後半その1:http://d.hatena.ne.jp/pon-taro/20060508へ続く