小林聡選手がキックボクシングを辞めてしまうことについて。

高倉仮面id:Mask_Takakura師はフリジッドスターid:frigidstarくんに
「『何も始まっちゃいねぇよ!』って叫ぶところだったんじゃないですか?」
と言われて腰が砕けていたが、ボクは高倉仮面師に
「キミが好きになった選手は次々に辞めていくな!」
と言われて立てなくなりました。

  • ○ジャルンチャイ・ケーサージム‐小林聡●(5R判定)


通用しなかった。1年かけてフィニッシュ・ブローとして磨きあげてきた、一打必倒の左ボディは、ジャルンチャイに効くかどうかさえわからなかった。距離を潰され、いいように試合をコントロールされ、左ボディは最後まで、放たれずに終わった。
ジャルンチャイは強かった。
ひたすらにじり寄り組みつき、ヒジとヒザで小林を蹂躙した。ヒジは小林の額を裂き、ヒザは何度となく小林の腿に突き立てられた。

観客は怒号する。
「クリンチだ!ブレークしろ!レフェリー何見てんだ!!」
しかし、ジャルンチャイの組みつきは、自身の回復やタイムアウト狙いの時間稼ぎではなく、ただ小林にダメージを与えるための「攻撃」だった。
自ら望んだムエタイの頂点に全身を痛め付けられ、足元もおぼつかないままにパンチを振るう、フック、アッパーを繰り出す小林を嘲笑うかのように、鋭く高い前蹴りが小林の顔面を射抜いた。小林は、自ら指名した「ユー・アー・ネクスト」の前に、ボロボロになり、敗れた。


観客は皆、期待し、信じていたはずだ。「小林が勝つ」ことではなく、厳密に言えば「もし負けても小林はまた復活する」ことをだ。全日本キックのメインには、日本のキックボクシングの中心には、いつまでも小林の姿があることを、無邪気に信じていたはずだ。
34歳という年齢も、相手が現役ムエタイ四冠王という「これ以上ない大物」であることも、その事実の前には意味がないと思っていた。
小林は「野良犬」だから、殴られても蹴られても切り裂かれても、横倒しに倒れても頭を包帯でグルグル巻きにしても、野良犬KID(S)は帰ってRETURNくるはずだった。


全てを出し尽くすことすら許されずに敗れた小林は、リング上でグローブを脱いで、言った。
「これからも、キックボクシングを、よろしくお願いします」
僕たちは気付かされた。キックボクシングが野良犬・小林聡なのではなく、野良犬・小林聡もまたキックボクシングのうちの一人だったという、ただそれだけの事実を。


ファンは狼狽し、マスコミも混乱し、関係者は慰留に奔走している。しかし、決めるのは小林自身のはずだ。
そうじゃないか?僕らは今まで、野良犬のすることに全てを任せきりにしてきたんじゃないか?それを今さら、どんな顔をして、どんな言葉で引き留められるんだ?
小林が去るならば見送るしかない。でも、もし野良犬がまた試合をするなら、それを観ればいい。
鎖に繋がれていない野良犬が大好きだから、僕は自ら、野良犬を鎖で繋ぐようなことはできないのだ。

もう終わっちゃったのかな?
まだ始まってねぇよ!


映画「キッズ・リターン」を観た。
あまりにも有名なこのセリフは、物語の最後を締め括るものだった。