ウツボ。

合コンに、ウツボを連れてきてしまった。
「やだ!気持ち悪い!」「噛まない?」
と、女の子には不評だったが、そのせいで合コンが目茶苦茶になっても、男たちは怒らなかった。
「すげーっ!俺、近くで見るのはじめてだよ!」
「なんつーか、カッコいいよな!」
とにかく男たちに絶賛され、初めて外に連れ出した俺のペットも嬉しそうだった。


それから、俺は時々ウツボを連れて外出することにした。
当時は、まだペットの水棲生物を連れ出すというのは珍しかったから、随分おかしな目で見られたものだ。が、最近は段々そういう人間も増えてきて、以前ほどの奇人扱いはされない。
まぁ、どこかの金持ちはカジキマグロをゴルフのお供にする、なんて話もあるくらいだから、世の中も変わったものだと思う。


ある日、友人同士で、ペットを連れて集まろうという話になった。場所は、いつも使うファミレスだ。水中動物は、吠えたり汚したりしないため、比較的早くから持ち込み可になる店が多かったのだ。
さて、その日に集まったペットである。
飼いやすいこともあって、一般的なのはウミウシやナマコ、ヒトデの類だが、みんな俺のウツボに触発されて飼い始めた奴らだったから、さすがに珍しいのがそろっている。
環境の変化に敏感なクラゲに、怒ると手のつけられないタコ。中には、フジツボを手乗りになるまでしつけた奴までいた。
「手に乗せてジッとしてるとさ、少しずつだけど動くんだよ。それがもう、可愛くてさぁ」
「ウチのクラゲもな。もうちょい成長すればもっとはっきり発光するんだけど、まだまだだね」
そんな風に盛り上がっている中、見慣れぬ男がひとり、いた。彼はペットを出しておらず、皆の話の聞き役に回っていた。
「……。んで、アンタは何を飼ってんのさ?そのカバンのなかにいるんだろ?」
と、訊いてみた。もの静かに見えるその男が何を連れているのか、傍らのカバンは妙に大きかったからだ。
「いや、実は」と、男はカバンを膝に上げ、ジッパーを開いた。
「ワニなんですよ」
と、カバンから首を出したワニは、一口に俺のウツボを飲み込んでしまった。
場が静まった。皆の視線が、ウツボを飲み込んだワニに集中した。


静寂を破ったのは、爆笑だった。
「おいおい、ひとくちだぜ?!」
「さすがはワニだよ!」
俺も一緒になって、涙が出るほど笑った。
一同の称賛を浴びながら、当然ワニは無感動の無表情で、それが一層、座の笑いを誘った。


そして今、俺はクリオネを飼っている。
今度のペットは、女の子にも評判がいい。