DDT2・22後楽園大会その3。

▼KO-D無差別級選手権試合無制限1本勝負
[王者]○高木三四郎
24分49秒 雪崩式シットダウンひまわりボム
[挑戦者]●飯伏幸太

いよいよメインイベント。
この試合は、齢40目前にしてレスラーキャリアの頂点にいるんじゃないかという充実ぶりを見せているDDTの大社長・高木三四郎と、DDTのみならずプロレス界の至宝とも目される飯伏幸太による、DDT最強の代名詞であるKO‐D無差別級タイトルマッチ。
この王座は、8・23両国国技館大会のメインイベントでタイトルマッチが組まれることが決定している。
国技館という由緒ある大会場のメインに王者として出場する…それは、言うまでもなくDDTのナンバーワンにしてオンリーワンのエースであることを意味するのだ。

仇敵にしてインディープロレス界の雄、ディック東郷との金網マッチでの死闘を制してベルトを奪取して以来、三四郎は、本気モードの男色ディーノ、DDT傘下のユニオンプロレスのエース石川修司、DDT若手の筆頭HARASHIMAらを次々に撃破。それら総ての試合において共通していたのは、「大人げない」という姿勢だった。
試合中はもちろん、前哨戦においても徹底して相手を翻弄し、勝つべき布石を十分に打っておいてから防衛戦に臨む。体力だけに任せるわけにはいかないアラフォー世代の三四郎にとって、今もっとも充実しているステータス、それは、この「大人げなさ」という人間力なのだ。

対する飯伏は抜群の運動神経とタフネスを誇り、そしてプロレス以外ではただのバカだと断言されるほどのプロレスバカ。どれくらいバカかというのは、昨年からの飯伏の試合を見ただけでもわかる。

★2008年4月27日・本屋プロレス伊野尾書店大会
★2008年7月27日・本屋プロレスTSUTAYA金沢店大会
この二つは、文字通り「本屋でプロレス」。4月では夜、営業時間が終わってからの開催となったが、7月の試合は、営業中のTSUTAYAの店内で行われた。プロレスラー二人が戦っているところから二つ隣のレジでは、普通にお会計が行われていたという。

★2008年8月6日“闘うビアガーデン2008”第3日・1st RING大会
この日の試合は、2008年のネットプロレス大賞でベストバウトを受賞した。飯伏にとっておそらく生涯でも3本の指に入る強敵(とも)、ケニー・オメガとの特別ルール3本勝負。2本先取すればいいのだが、そのうち1本は「路上」で取らなければならないのだ。
夜の新木場、自動販売機の上からフェニックス・スプラッシュ(バク宙しながら横に一回捻って腹から落ちる)を敢行した飯伏の姿を生で目撃できたことは、もしこの先自分がプロレスファンでなくなっても、絶対に一生忘れない。

★2008年9月7日・キャンプ場プロレスネイチャーランド・オム大会
これも文字通り「キャンプ場」で開催。2時間近く野外でプロレスしていたそうだ。
なお、飯伏はこの前日、TVでも放送されたメジャー団体NOAHの武道館大会に参戦している。

★2009年1月19日・明治大学駿河台キャンパス・リバティタワー内リバティホール1013教室
「大学の授業時間中に」授業の一環として行われた、教室内での試合。2階部分がある大教室だったそうだが、飯伏はその2階からムーンサルト

★2009年1月24日・新木場1stRING大会
上の“闘うビアガーデン”で戦ったケニー・オメガと組み、KO‐Dタッグ王座を獲得した試合。
最後のとどめに使った技は、一糸乱れぬ回転による二人揃ってのファイアーバード・スプラッシュ(前宙してプレス)だったそうだ。自分は映像でその場面を見たが、カメラが横から撮っていて、画面上では手前の飯伏しか見えなかった。

野外…というかプロレス会場でもなんでもないところでの試合が嫌でも目を引くが、飯伏は、
「野外でリングがないからといって、普段と違うプロレスしたら意味ないです。下がリングだろうと地面だろうと同じことをやって、それで初めて『野外でプロレスした』って言えるんだと思います」
と語っているそうだ。

と、これだけ書くと無茶で無謀なことをするだけの人間のようだが、これと同時に、飯伏のプロレスは、上で少し触れたように、メジャー団体でも認められ、高い評価を受けている。
YouTubeなどでいくらでも国内外の過激なパフォーマンスを見られる現代に、そういうものに慣れきったネット住民たちからプロレス大賞に選ばれたというのも、飯伏の試合内容の質を裏付けている、と思う。


しかし、飯伏は現在右肩を負傷中。入場してきた飯伏の肩には痛々しいテーピングが巻かれている。
当然、右肩を狙っていくと思われた三四郎だが、裏をかくように一点集中の腹責め。腹部への膝蹴りやボディシザース、場外では記者席の机を次々と飯伏の腹に叩きつけていく。
飯伏は得意のキックを繰り出し、三四郎に投げられそうになるとバネを活かして叩きつけられる前に着地、反対に投げ返すなど反撃。ところが飯伏がリズムを作りかけるたび、三四郎は飯伏の右肩を攻撃して決してペースを握らせない。
試合は再び場外へ。飯伏は場外ジャーマンスープレックス三四郎は場外スピコリ・ドライバー。両者とも大ダメージだ。

リングへ戻ると飯伏は強烈なレッグラリアートから、コーナーに上ってムーンサルト…だが、三四郎はそれを空中でキャッチしてスタナー。
三四郎が雪崩式ブレーンバスターにいくものの、飯伏はバク宙で回避してジャーマン、そして地上からのムーンサルト・カンクーントルネード(ムーンサルトに横捻りを加える)。一転してピンチの三四郎は、再び飯伏の右肩を攻めて勢いをストップさせる。

三四郎は序盤から攻め続けた腹にダイビング・フットスタンプ。手応えあったか必殺技のシットダウンひまわりボム(肩車した相手を半回転させてパワーボム。以下SHB)を仕掛けるが、飯伏は三四郎の肩からバク転で脱出!すぐさまドラゴンスープレックスを放ち、コーナーに駆け上がるとフェニックス・スプラッシュ…しかし、待っていたのは三四郎の膝だった!またしても腹部に大ダメージを負い、のたうち回る飯伏。

すでにボロボロの両者は、それでも三四郎ラリアート、飯伏がミドルキックでぶつかり合う。三四郎は尻餅をついた飯伏に後頭部→正面からのラリアート。さらにSHB、そして飯伏を肩車したままコーナーに上り、雪崩式のSHB!誰もが「そこまでやるかよ!」と戦慄した「大人げない」怒濤のラッシュで、団体の若きエースから王座を死守した!


試合後、身体を引きずるように控え室に戻る飯伏を、リング上で倒れ込んだままマイクを持った三四郎が呼び止める。

三四郎「飯伏、大人げなくてごめんね。だけどオレだって今日のためにコンディショニングをバッチリ整えてきたんだよ。肩が壊れた状態でこの俺様に勝つなんて2億光年はえーんだよ!飯伏、肩が治ったらやろうぜ、またな。もう一回やろうぜ」

飯伏は口惜しそうに一礼し、無言で退場していった。


(メインの感想)
どっちが勝つかとかあんまり考えない…というかこの二人が戦うってだけで楽しみすぎたので、わりと真っ白な状態でメインを迎えたんだけど、試合が始まったらもう完全に大社長応援モードに入っちゃった。
なぜなのかははっきりわからないけど、多分、すごい失礼な言い方になるけど、この試合は「持てる者」と「持たざる者」の戦いだったからなのかもしれない、と思う。

時間が経って落ち着いてから考えてみれば、なんだかんだと言っても8月23日の両国大会でメインを張れるのは飯伏幸太だと思うし、それまであと半年という期間があることを思うと、このタイミングで飯伏が王者になるのは早すぎて、両国までに息切れしてしまうんじゃないか、ということも思い浮かぶ。
さらに言えば飯伏の右肩の故障はまだかなり悪そうだから、今はまだ治療を重視すべきなんじゃないだろうか、とも。

でも、そういうのともちょっと違うのだ。
そんなスレた考えかた(シュマーク、っていうんだっけ?)をしなくても、話はもっと単純で、

この続きは書きにくいなぁ。

話はもっと単純で、高木三四郎より、飯伏幸太のほうが優れたプロレスラーだと思うのだ。


あああ、書いちゃった。

でも、違うんだよ。
普通に考えたら飯伏だけど、三四郎が好きだから応援したい、とかそういうんじゃなくて、そんな判官贔屓めいた湿っぽい感情ではなくて、なぜ今回俺が力一杯三四郎を応援したかというと、それはやっぱり、2008年の12月28日、後楽園ホールで、

「オマエら夢はないのか?プロレスをやっていればいいのか?夢はねえのか?
 オマエら夢はねえのか?お客さん、夢はねえのか?
 あんだろ!俺たちと一緒に大きな夢を目指そう。もう待ったなしだ。もうすぐ金も振り込むし。間違いなく8月23日、両国国技館やりまーす!
 俺たちは両国に向けて突っ走るぞー!」

と言ってくれたから。
結局あの日、高木さんが大きな夢を与えてくれた日から、自分の環境は何ひとつ変わってなくて、情けない話だけど、今回、高木三四郎には、夢をもって夢に向かって進むことが大きな力になるんだ、ということを、もう一度教えてもらいたかったから、なんだと思う。

高木社長、ありがとうございました。両国大会、がんばりましょう。絶対成功させましょう。だから、俺も、そこへ連れていってください。
よろしくお願いします。